ひきこさんはどこから生まれた?|2001年の投稿説と口裂け女との関係を検証

雨の日、白い服の女が子どもを引きずって歩く。2000年代のインターネットで知られるようになった「ひきこさん」は、顔に傷のある女性として語られる怪談だ。だが、現在広まる物語はいつ、どこで成立したのだろうか。

名前は「森妃姫子」。いじめを受けて引きこもった過去を持ち、子どもを襲う――そうした説明が繰り返される一方で、怪談の初出を示す確実な原本は見つけにくい。物語の内容と伝播の記録を分けて調べてみよう。

目次

ひきこさんとは|雨の日の怪異

一般的な語りでは、ひきこさんは白い服をまとい、長い髪で顔を隠し、子どもを引きずって歩く。遠目には人形を引いているように見え、近づくと子どもだったと分かる。顔の傷、裂けた口、異様な力などの描写もある。

ただし、すべての紹介に同じ設定がそろうわけではない。いじめの過去を語るもの、目撃者への問いかけを中心にするもの、対処法を載せるものがあり、複数の形で流通している。実在の事件の記録ではなく、まずは怪談のバリエーションとして扱うべきだ。

ダイヤ
最初から全部の設定が決まっていたわけじゃないのかな。
ハート
そうなの。初期の投稿と、後から広まった説明を分けて考える必要があるんだよ。

2001年の投稿説|初出はどこか

ひきこさんの起源については、2001年7月24日に怪談投稿サイト「Alpha-web こわい話」に掲載されたという説がある。後年の怪談研究を紹介する記事では、怪異としての描写と「森妃姫子」の生い立ちが別々の投稿として現れた可能性にも触れている。

現在確認できる資料では、当該サイトの投稿原本や保存アーカイブの直接照合には至っていない。一方、朝里樹は2018年のインタビューで、2001年に都市伝説サイトでこの怪談を知ったと語っている。

したがって、その日付を「確定した最古の記録」と断定することはできない。原文、投稿者名、掲載時刻、後日の改変の有無を照合して初めて、起源の議論は前進する。

一方、2ちゃんねるのオカルト板で生まれたと説明するサイトもある。だが、掲示板の具体的なスレッドや投稿日が示されなければ、発祥地と転載先を区別できない。「ネットで流行した」と「その場所で創作された」は別の主張だ。

森妃姫子という名前と悲劇的な過去

森妃姫子は、学校でいじめられ、家に閉じこもるようになった少女だったと語られる。死後に怪異となったという筋書きは、恐ろしい行動に理由を与え、聞き手に同情と恐怖の両方を抱かせる。

しかし、名前が具体的だからといって、その人物が実在した証拠にはならない。いじめやひきこもりと怪異を直接結びつけるのも慎重であるべきだ。物語の設定は、現実の当事者の姿を表しているわけではない。

ダイヤ
名前が具体的だと、実在した人物の記録みたいに見えてしまうんだね。
ハート
そうなの。でも、名前があることと実在の証拠があることは別なんだよ。

口裂け女との関係|問いかける女の怪談

ひきこさんの一部の語りには、相手に自分の顔の醜さを尋ねる場面がある。これは1970年代末に全国へ広がった口裂け女の「私、きれい?」という問いを連想させる。顔に傷を負った女性が子どもを恐れさせるという点でも共通する。

ただし、似ているだけで直接の影響関係が証明されるわけではない。口裂け女は学校や塾での口コミを通じて広がったことで知られ、ひきこさんはインターネット上の投稿・転載と結びついている。比較すると、怪談の舞台だけでなく伝達手段の変化も見えてくる。

民俗学者の飯倉義之は、インターネット上の都市伝説について、文章がコピーされて同じ形を保つ面と、改変されて別の話になる面の両方を論じている。ひきこさんの設定の揺れも、その観点から調べる価値がある。

ダイヤ
口裂け女と似た部分があっても、直接つながるとは限らないんだね。
ハート
うん。ネットでどんなふうに話が広がったかも、怪談を理解する大事な手がかりなの。

映像化で変わる怪談の姿

映像化の一例が、2011年のホラー作品『ひきこさん VS 口裂け女』だ。配信サービスの作品情報によれば、監督・脚本は永岡久明、上映時間は90分。異なる二つの怪談を組み合わせた映像作品であり、映画独自の設定を初期のネット投稿の内容と混同してはいけない。

怪談が映像化されると、曖昧だった姿が具体的な衣装や顔として示される。それがさらにネットの紹介文に取り込まれることもある。初期投稿、まとめ記事、映像作品を時系列に並べれば、どの特徴がいつ定着したのかを検証できるだろう。

実在の事件が元になったのか

ひきこさんを特定のいじめ事件や社会問題から生まれた怪談と説明する説もある。しかし今回確認した範囲では、特定の事件と最初の投稿を直接結びつける一次資料は得られなかった。社会背景との関連を考察することと、実在の被害者がモデルだったと断定することは違う。

また「ひきこさん」という呼称が「引きこもり」に由来するという説明も、命名した人物の記録がなければ推測にとどまる。語感が似ていることだけで語源は確定しない。

ダイヤ
発祥した場所も、後から広まった場所も、一緒にしないほうがよさそうだね。
ハート
そうなの。確かめられなかったことも隠さず書くのが、調査には大切なんだよ。

まとめ|ネットの中で育った怪異

ひきこさんは、雨の日に子どもを引きずる女という強いイメージを中心に、名前、生い立ち、問いかけ、対処法などが重なって広まった都市伝説だ。2001年の怪談投稿サイト説と2ちゃんねる発祥説には違いがあり、今回の資料だけでは最初の作者や投稿を確定できない。

それでも、口裂け女のような古い怪談との共通点や、ウェブ上での転載・改変という伝わり方は見えてくる。ひきこさんを調べることは、一人の怪物の正体を追うだけでなく、平成の人々がどのように怖い話を共有したのかを探ることでもある。

参考資料

[1] nippon.com「『口裂け女』から『きさらぎ駅』まで―都市伝説の変容から振り返る昭和・平成の日本社会」

[2] 好書好日「いまココにいる怪異を1000種以上紹介 朝里樹さん『日本現代怪異事典』」

[3] Hulu「ひきこさん VS 口裂け女」作品情報

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この記録の編纂者

Chronicle Reportの管理人、Jです。
古い怪談や奇妙な噂が、いつ、どこから語られ始めたのか気になって、資料をめくっています。
ここは、その調べものを収める書庫。
分かったことも、まだ分からないことも、4人の案内人と一緒に記録していきます。

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