モモチャレンジは実在したのか|日本の怪異作品から世界へ広まったネットデマを検証する

大きく見開かれた目、細長い顔、不自然に広がった口。2018年から2019年にかけて、その不気味な画像が「モモ(Momo)」という名前で世界中に広がった。「メッセージが届くと危険なゲームが始まる」「子どもたちが脅される」。そんな警告を見たことがあるだろうか。

当時、保護者のSNS投稿をきっかけに、学校や警察が注意を呼びかけ、テレビや新聞まで話題を取り上げた。しかし、広く流布した筋書きに沿って「モモ」が子どもに指示を与え、被害を生んだという確かな事例は、主要な検証機関では確認されなかった。

興味深いことに、画像の元になった怪異の造形物は実在した。しかも、それは日本の特殊造形作家が作った美術作品だった。実在する作品の写真が、なぜ世界的なネット怪談へ変わったのか。写真、報道、検証記事の順にたどってみよう。

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「モモチャレンジ」はどんな噂だったのか

噂の中心にあったのは、WhatsAppなどのメッセージアプリで、不気味な顔の画像を使ったアカウントが子どもへ連絡し、危険な行為を要求するという話だった。言うことを聞かなければ秘密を暴露すると脅される、という版もあった。

2019年には「子ども向けアニメの途中にモモが突然現れる」「動画を見ただけで危険な指示を受ける」といった説明も加わった。噂の細部は投稿によって異なり、決まったルールを持つ一つのゲームが確認されていたわけではない。

この違いは重要だ。奇妙な画像を送るいたずら、画像を編集して動画に差し込む行為、組織的な『チャレンジ』が存在するという主張は、それぞれ別の問題である。一つが見つかったからといって、残りまで実在したことにはならない。

クラブ
写真も、メッセージが送られてきたという噂もあったなら、全部本当だと思ってしまいそう。
ダイヤ
そうなんだ。写真が実在することと、危険なゲームがあったかどうかは、分けて確かめる必要があるんだよ。

元の姿は2016年に公開された日本の彫刻

「モモ」の画像の元になったのは、日本の特殊造形会社リンクファクトリーの相蘇敬介が制作した作品だった。AFPの2019年3月の取材によると、高さ約1メートルの怪異の造形物で、2016年に東京・銀座の展示会で公開された。

制作者が着想源として語ったのは、日本の妖怪「産女(うぶめ)」である。亡くなった女性や出産に関わる伝承と結びついた妖怪を、独自の造形で表現したものだった。鳥のような下半身を持つ作品全体の姿よりも、顔の写真が切り取られて広まった。

制作当時、この作品は「危険なゲーム」を宣伝するために作られたものではなかった。制作者も騒動への関与を否定し、作品が人を傷つけるためのものではないと説明している。2018年には劣化したため処分され、2019年の騒動が理由ではないとも語った。

ここで確認できるのは、怖い顔の画像には具体的な作者と美術作品としての来歴があるということだ。画像が恐ろしい物語に使われたからといって、作者がその物語を考えた人物だとはならない。

2018年、写真がネット怪談と結びつく

画像が世界的な怪談へつながる経緯には、複数の段階がある。ファクトチェック機関The Ferretの調査によると、元の造形物は2016年から写真として投稿され、2018年7月には加工された画像がRedditの怪奇画像コミュニティで注目を集めた。

同じ時期、WhatsAppの番号へ連絡すると不気味な人物から返信が来るという話が加わり、画像に「モモ」という名前が結びついていった。そこから、危険な課題を送りつけるゲームという筋書きが生まれていく。

2018年には南米などの事件と「モモ」を関連づける報道が現れた。しかし、複数の国で語られた死亡事例について、モモチャレンジとの因果関係は確認されていなかった。亡くなった人の実際の出来事を、検証されないままネットの物語に利用すべきではない。

ネット怪談では、写真が先に広まり、その後から物語や「目撃者」が付け加えられることがある。モモの場合も、もともとの美術作品とは無関係な意味が画像に与えられたことが出発点となった。

2019年、イギリスで保護者向けの警告が拡散

2019年2月、イギリスで騒動が再燃した。ファクトチェック団体Full Factによると、地元のFacebookグループに書かれた保護者の警告をきっかけに、地方紙と全国紙が相次いでモモチャレンジを取り上げた。

「子どもが危険な画像を見るかもしれない」という注意喚起は、保護者にとって切実なものだ。そのため、詳細を確認するよりも先に投稿を共有する人が増え、学校や警察まで注意を呼びかける状況になった。

一方、UK Safer Internet Centreは危険なチャレンジの噂を偽情報とみなし、英国の児童保護団体や警察も、語られているような被害を裏づける事例を確認していなかった。BBCは2019年2月28日、こうした調査を紹介し、噂の主要部分は「でっち上げ」だと報じた。

重要なのは、保護者や学校が子どもを心配していたこと自体は現実だったという点だ。噂の内容は裏づけられていなくても、その噂に対して社会が反応したことは確かな出来事である。

クラブ
注意喚起を読んだ人が、よかれと思って広めた可能性もあるんだね。
ダイヤ
そうだね。注意を呼びかけるつもりでも、確かめていない話を広めると噂を強めてしまうんだ。

被害報告は本当に確認されたのか

2019年時点の検証では、「モモ」の指示が原因で子どもが自傷行為に至ったと確認された事例は見つかっていない。英国の慈善団体Samaritansも、噂と自傷被害を結びつける検証可能な証拠を把握していないと説明した。

英国の通信規制機関Ofcomは子どものメディア利用調査で、「モモ」をインターネット上の都市伝説に登場する架空の存在と説明した。調査には、モモの画像を怖がった子どもの証言も収録されている。この資料が示すのは、怪談そのものを信じたかどうかとは別に、画像を見て不安になる人がいたという点だ。

ただし、「検証できる事例がなかった」と「世界中の誰も不快な画像を見せられなかった」は同じ意味ではない。実際、BBCなどは、無断でアップロードされた子ども向け動画に、不気味な画像を編集して挿入した事例を紹介している。

そのような動画が不快であること、子どもに不適切な内容が表示されることは現実的な問題だ。しかし、それを組織的なモモチャレンジの存在を証明するものとして扱うことはできない。

「見た」「被害に遭った」「拡散した」を区別する

当時のニュースでは、「子どもが画像を怖がった」「動画の中に画像が差し込まれていた」「誰かが危険な指示を送った」といった話が、ひとまとまりに伝わることがあった。しかし、これらを立証するために必要な資料は異なる。

子どもが不安を感じたことは、本人や保護者の証言から調べられる。動画への挿入なら、問題の映像と公開日時を調べる必要がある。組織的に人を操るゲームの存在を主張するなら、指示の記録や独立した被害確認が欠かせない。画像への反応を集めただけでは、危険なゲームの実在は示せない。

なぜ否定されても噂は止まらなかったのか

モモチャレンジの特徴は、警告を共有する行動そのものが、怪談を広める仕組みになっていたことだ。写真を添えて「この顔を見たら危険」「子どもに知らせて」と呼びかければ、もともとその噂を知らなかった人にも画像と物語が届く。

Full Factは、2019年2月にイギリスの報道で「モモ」への言及が急増した経緯を調べ、危険を呼びかける記事の連鎖が関心を膨らませたと分析した。警告記事は現実に存在しても、記事が繰り返す危険の筋書きが確認されたとは限らない。

こうした状況は「モラル・パニック」とも呼ばれる。社会が子どもや家族の安全への不安から、実際に確認された危険を超えて大きな脅威を感じてしまう現象を考えるための言葉だ。ただし、不安を抱いた人を笑うための言葉ではない。情報がなぜ切実に受け止められたのかを理解する視点である。

クラブ
危険だから広めよう、という投稿が噂をもっと有名にしたんだね。
ダイヤ
そうなんだ。注意喚起でも出典を確かめたいね。拡散によって、怖い画像を広めてしまうこともあるから。

作品の作者が語ったこと

騒動が大きくなった2019年3月、AFPは日本の造形作家・相蘇敬介に取材した。相蘇は、元の作品は産女に着想を得たものであり、人々を危険にさらすために作ったのではないと説明した。

ここには、ネット上で写真が作者の意図から切り離されるという問題も表れている。画像を見た人が勝手に新しい物語を付け加えても、制作者がその物語を認めたことにはならない。創作物が知らぬ間に社会的な騒動の象徴になることもある。

また、制作者によると作品は騒動前の2018年に処分されていた。怪談の「モモ」が世界中で語られているころ、元の造形物はすでに存在しなかったのである。画像だけが本来の文脈を離れて独り歩きしたことを象徴する事実だ。

本当に気をつけるべきことは何だったのか

噂を否定することは、インターネットに子どもへの危険が存在しないと言うことではない。不適切な動画、知らない相手からの接触、脅すようなメッセージなどは、個別に注意すべき問題である。

ただし、それらすべてを「モモ」の名で呼ぶと、実際に何が起きたのかが見えなくなる。子どもに不快な画像が届いたのなら、どのサービスで誰から届いたのかを確認し、必要に応じて運営側や相談先へ伝える方が具体的な対応につながる。

当時の警察や児童保護団体も、特定の怪談を必要以上に拡散するより、子どもが何を見ているかについて落ち着いて話し合い、一般的なネット安全対策を確認するよう呼びかけていた。恐怖を煽る警告と、役に立つ安全情報の違いはここにある。

存在した画像と、確認されなかったゲーム

モモの元になった作品は日本で作られ、2016年に公開された。2018年にはその写真がネット上で怪談と結びつき、2019年には保護者や報道機関の間で大きな不安を呼んだ。ここまでは資料でたどることができる。

一方、噂の中心だった「モモが子どもへ危険な課題を送り、深刻な被害を起こしている」という筋書きには、検証可能な根拠が示されなかった。独立した調査と報道は、主要な部分をネットデマと評価している。

この出来事の本当の怖さは、画像の表情そのものだけではない。守りたいという気持ちから広がった警告が、確かめられていない物語を世界に伝えてしまったことだ。怪談の歴史を調べることは、情報が本当らしく見える仕組みを知ることでもある。

クラブ
画像が本物だから、そこに付いた噂も本物だと思いやすいんだね。
ダイヤ
うん。画像の出自、ネットの噂、確認された被害を分ける。それがこの騒動を理解する鍵なんだよ。

参考資料

[1] AFPBB News「ネットデマ生んだ恐怖人形、昨年に処分 日本人制作者が明かす」(2019年3月5日)

[2] BBC News「Momo challenge: The anatomy of a hoax」(2019年2月28日)

[3] Full Fact「The ‘Momo challenge’ is an online hoax fuelled by media coverage」

[4] Ofcom「Children’s Media Lives – Wave 6」

[5] The Ferret「Claim three in ten children affected by so-called ‘Momo challenge’ is Mostly False」

[6] The Japan Times「Japanese artist behind ghastly creature in viral ‘Momo Challenge’ baffled by disturbing hoax」

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この記録の編纂者

Chronicle Reportの管理人、Jです。
古い怪談や奇妙な噂が、いつ、どこから語られ始めたのか気になって、資料をめくっています。
ここは、その調べものを収める書庫。
分かったことも、まだ分からないことも、4人の案内人と一緒に記録していきます。

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